朝起きると
からっぽになっていた。
ここには、
キラキラ光る
小さなカケラとか、
どこかで見つけた
珍しい形の石とか、
ラムネに入っていた
綺麗なビー玉とか、
私の宝物が
たくさん入っている
はずだった。
からっぽの瓶を
眺めていると、
そこには
初めて感じる感覚が
入っているみたいだった。
深い悲しみや
恐怖心のようでもあり、
この上ない幸せや
喜びのようでもある感情。
それは遠い感覚で、
今まで感じてきた
痛みや苦しみや
喜びの全ては、
私のものではなかったと、
知った瞬間
だったのかもしれない。
私の瓶には、
初めから蓋がしてあった。
何も感じなくて
済むように、
悲しいとか怖いとか、
思わなくて済むように。
これは全部
私の気持ちじゃなかった。
どこかで拾い集めて、
自分の気持ちだと
思い込んでしまっていた
誰かの感情だった。
私の気持ちなんて、
最初からひとつも
存在していなかった。
だから
涙が出そうになるんだ。
何も入っていない瓶を
ぼーっと眺めていると、
ブラックホールのような
得体の知れない何かと
対峙しているみたいに、
大きな恐怖心にも似た
感覚になっていく。
からっぽの瓶に
触れてみると、
ひんやり
冷たい温度が
伝わってきた。
からっぽだった
瓶の中に、
真っ白な雪が降り始め、
どこからか、
優しい鈴の音が
聞こえた気がした。
*この物語は、2025年12月3日に note と X に投稿したものを転記したものです。

